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繁殖によるヒョウモントカゲモドキの遺伝を理解するための遺伝学の初歩

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遺伝学の初歩

以下では分かりやすい様に豆などを例にとっていますが、ヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)の遺伝について理解するには遺伝学の初歩を学ぶ事が重要となります。

親から子へ形質を伝える因子が遺伝子

遺伝とは子が親に似る事です。
子の体色や体格は父親・母親に似る所が多いです。また親よりも祖父母に似る事もあります。
この様に生物の持つ性質が、世代を通して子孫に受け継がれていくのが遺伝です。

親から子へ伝わる性質を遺伝形質と呼びます。
遺伝形質の元となる因子が遺伝子です。

優性の法則

遺伝法則を理解するには、対立形質という考え方が重要になります。
対立形質とは文字通り対になる形質のことで豆が丸いかしわがあるのか。葉が黄色か緑か。などはそれぞれが対立形質となります。
(豆ですとイメージが付きにくい場合は、ヒョウモントカゲモドキの地色が白いか白くないか(スノー)、体格が大きいか大きくないか(ジャイアント)などと同様だと考えて下さい)

メンデルは一つの形質について一対の対立遺伝子を持つと考えました。
異なる形質(丸い豆としわのある豆)を示す個体同士を掛け合わせると、子(雑種第一代)にはどちらかの親の形質だけが表れます。
これを優性の法則と言います。
子に現れる形質を優性形質、現れない形質を潜性(劣性)形質と言います。

分離の法則

分離の法則とは、ある対立形質が世代を重ねる際にどのように遺伝していくか?というものになります。
どの様に遺伝するのか?それは対立する遺伝子は雄しべと雌しべ(ヒョウモントカゲモドキの場合は精子と卵子)を作る時に同じ割合で別れるという事です。

例えば豆を丸くする遺伝子をR,豆をしわにする遺伝子をrとします。

  1. 最初の丸い豆はRR、しわの豆はrr
  2. RRとrrの子はRr
  3. RrとRrの子は以下のようになるので、3:1で丸い豆が出来る
    • RR
    • Rr
    • Rr
    • rr

これはヒョウモントカゲモドキでも良くある例になります。
マックスノーとマックスノーの例が有名で分かりやすいと思われます。
マックスノーの遺伝子をMs、ノーマルをnとすると、Ms/nとMs/nなので

  • Ms/Ms(スーパーマックスノー)
  • Ms/n(マックスノー)
  • Ms/n(マックスノー)
  • n/n(ノーマル)

となり、前述した豆の例と同じになります。

独立の法則

独立の法則とは別々の形質を決める対立遺伝子は、お互いに関係せずに独立して優性の法則と分離の法則に従い遺伝する事です。

ヒョウモントカゲモドキの例ならば、マックスノーのホワイトアンドイエローはお互いに関係せずに独立して遺伝します。
マックスノーの対立遺伝子をMs、ハイポメラニスティックの対立遺伝子をHyとするならば、

  • Ms/n
  • Ms/Ms
  • Hy/n
  • Hy/Hy

は有り得ますがMs/Hyは有り得ません。
ただし「マックスノー且つハイポメラニスティック」というのは別々の形質が遺伝した結果として存在します。
この「ある形質を決める対立遺伝子が収められる場所」を遺伝子座と言います。

上記の例では、例えば両親共にMs/n, Hy/nならば

  • スーパーマックスノーハイポ 3/16
  • スーパーマックスノー 1/16
  • マックスノーハイポ 3/8
  • マックスノー 1/8
  • ハイポ 3/16
  • ノーマル 1/16

となります(ハイポはHy/nでもHy/Hyでも見た目の変化がないので、上記の確率のハイポの中にはHy/nHy/Hyが混ざっています)

遺伝子座とホモ接合・ヘテロ接合

先にも触れましたが、それぞれの遺伝子が存在する場所は染色体上で厳密に決められています。
この場所を遺伝子座と呼びます。

つまりある同じ場所(遺伝子座)に存在する遺伝子の違いが対立遺伝子と考えられます。

ある遺伝子座の対立遺伝子の組み合わせがMs/Msn/nのように何方も同じ遺伝子である事をホモ接合と言います。
Ms/nの様に組み合わせが違う事をヘテロ接合と呼びます。

ヒョウモントカゲモドキではよくhet ベルアルビノのような記載(hetはヘテロの略)がありますが、これはベルアルビノの遺伝子座に一つだけ対立遺伝子が存在することになります。

詳しくは後述しますが、対立遺伝子は一つだけで表現する遺伝子、一つだけで表現するが二つ揃うとより表現する遺伝子、二つ揃わないと表現されない遺伝子があります。
hetが記載されるのは最後の「二つ揃わないと表現されない対立遺伝子」で、「見た目には解らないけど、親から一つだけは遺伝されている」という意味になります.

前述のように親の対立遺伝子がホモ接合されていれば、100%一つは遺伝するためhet表記が可能になります.

また、例えば父親がヘテロベルアルビノで母親がベルアルビノの対立遺伝子を持っていなかった場合は50%の確率でベルアルビノの対立遺伝子が遺伝されます。
この場合は「確実にベルアルビノの対立遺伝子を持っている」とは言えなくなるため、Poss50% het ベルアルビノのような表記になります。

潜性(劣性)遺伝

潜性(劣性)遺伝とは「2つ揃わなければ表現しない対立遺伝子」の事です。
ヒョウモントカゲモドキで確認されているものは

  • ベルアルビノ
  • トレンパーアルビノ
  • レインウォーターアルビノ
  • ブリザード
  • マーフィーパターンレス
  • エクリプス
  • ブラックパール
  • マーブルアイ

になります。

これらは前述したように、遺伝子座に同じ対立遺伝子が揃わないと(ホモ接合でないと)その特徴が表れません。

繁殖の場合は、ブリザードを例に取ると以下のような組み合わせになります。

ブリザード(ホモ)ブリザード(ホモ接合)

  • ブリザード 100%

ブリザード(ホモ)ヘテロ ブリザード

  • ブリザード 50%
  • het ブリザード 50%

ヘテロ ブリザードヘテロ ブリザード

  • ブリザード 25%
  • het ブリザード 25%
  • ノーマル 50%

ブリザード(ホモ)ブリザード無し

  • het ブリザード 100%

ヘテロ ブリザードブリザード無し

  • het ブリザード 50%
  • ノーマル 50%

顕性(優性)遺伝

顕性(優性)遺伝とは、遺伝子座に対立遺伝子が一つだけでも特徴が表現される(優性の法則において優性形質である)対立遺伝子です。
ヒョウモントカゲモドキでは

  • ハイポメラニスティック
  • エニグマ
  • ホワイトアンドイエロー
  • GEMスノー

が確認されています。
これらは遺伝子座に対立遺伝子が二つともある状態(ホモ接合)でも、見た目は変わらない為ホモなのかヘテロなのか判断が難しいです。
以下にあるように繁殖の際に子に形質が遺伝する確率は変わりますが、あくまでも確率なのでヘテロ接合の親が「たまたま全部遺伝された」可能性がある為です(確率50%は残りの可能性を消す訳ではない)

GEMスノーを例に取ると、繁殖による組み合わせは以下の様になります。

GEMスノー(ホモ)GEMスノー(ホモ)

  • GEMスノー(ホモ) 100%

GEMスノー(ホモ)GEMスノー(ヘテロ)

  • GEMスノー(ホモ) 50%
  • GEMスノー(ヘテロ) 50%

GEMスノー(ヘテロ)GEMスノー(ヘテロ)

  • GEMスノー(ホモ) 25%
  • GEMスノー(ヘテロ) 50%
  • ノーマル 25%

GEMスノー(ホモ)GEMスノーなし

  • GEMスノー(ヘテロ) 100%

GEMスノー(ヘテロ)GEMスノーなし

  • GEMスノー(ヘテロ) 50%
  • ノーマル 50%

共顕性(共優性)遺伝

共顕性(共優性)遺伝とは遺伝子座に対立遺伝子が一つでも表現するが、二つ揃うとよりその表現が特徴的になる対立遺伝子です。
いわゆる「スーパー」が付くモルフの一部がそれにあたります.
爬虫類業界ではスーパー体と呼称しています。

ただし、下記のモルフ以外にも「スーパー」がつくものがあり、それは「凄い」という意味となります(ややこしいですが)。

ヒョウモントカゲモドキで確認されている共顕性(共優性)遺伝は

  • マックスノー
  • ジャイアント
  • (恐らく)レモンフロスト

があります。

スーパーマックスノー(ホモ)スーパーマックスノー(ホモ)

  • スーパーマックスノー(ホモ) 100%

スーパーマックスノー(ホモ)マックスノー(ヘテロ)

  • スーパーマックスノー(ホモ) 50%
  • マックスノー(ヘテロ) 50%

マックスノー(ヘテロ)マックスノー(ヘテロ)

  • スーパーマックスノー(ホモ) 25%
  • マックスノー(ヘテロ) 50%
  • ノーマル 25%

スーパーマックスノー(ホモ)マックスノーなし

  • マックスノー(ヘテロ) 100%

マックスノー(ヘテロ)マックスノーなし

  • マックスノー(ヘテロ) 50%
  • ノーマル 50%

不完全顕性(優性)遺伝

これまでヒョウモントカゲモドキにおいてスーパー体が存在するモルフを共顕性(共優性)遺伝と呼んできました。
しかし海外の有名ブリーダーを始めとして、これは誤りだという流れが出来始めています。
すなわち共顕性(共優性)遺伝ではなく、不完全顕性(優性)遺伝が正しいのでは?という事です。

では、不完全顕性(優性)遺伝とは何でしょうか?

kotobankを引くと以下のようにあります。

完全顕性(優性)に対し,対立遺伝子間の優劣関係が明瞭でなく,不完全な場合をいう。
ヘテロ (Aa) でも,一方の形質 (a) が完全に隠されてしまうことはなく,しかし他方のホモ (AA) の場合よりも,形質 (A) の発現が劣り,中間形質になり,中間雑種と呼ばれる。
オシロイバナ,キンギョソウ,マルバアサガオの花の色,蚕の体色などで知られている。
人間の ABO式血液型で,AとBの遺伝子は,優劣関係のまったくない場合の例であり,ヘテロは血液型 ABとなるが,このような場合には,AとBのどちらの遺伝子も,他方に対し不完全顕性(優性)であるといえる。

出典 kotobank 不完全顕性(優性)遺伝

ヒョウモントカゲモドキのマックスノーにおける共顕性(共優性)遺伝と不完全顕性(優性)遺伝についての違いは、とっとこ氏のブログマックスノーの不完全顕性(優性)遺伝をご覧下さい。

複対立遺伝子

これまでは1つの遺伝子座に対して2つの対立遺伝子の場合を考えてきました。
しかし、生物界において1角遺伝子座に3つ以上の対立遺伝子が存在することは珍しくありません。

遺伝子座には2つの複対立遺伝子しか存在出来ないため、3種類以上の対立遺伝子の中から選ばれた任意の2つの遺伝子の関係において個体の形質が決まります。

現在ではまだ一般的ではありませんが、マーフィーパターンレスの遺伝子座に3種の複対立遺伝子が存在することがKAZ氏とN.O.氏によって確認されています。

マーフィーパターンレス遺伝子座の複対立遺伝子についての詳しくは

をご覧下さい。
マーフィーパターンレス遺伝子座にマーフィーパターンレス/ダイオライトが揃うとダイオライトが表現される事を検証された研究論文となります。