動物愛護とは飼養動物、野生動物を問わず動物達の虐待、遺棄、密漁などから守り、保護する事です。
以下ではアジア圏や西洋圏、各宗教や文化的土壌の動物観を時代別に編纂しています。
これらは各人種が生まれ持ってそういった考え方を持っているという差別的な区分けではありません。
文化・宗教によってそのような考え方が各時代に持たれていたという、文化や宗教が人間の動物観にどのように影響を与えてきたのかという整理です。
日本の動物愛護運動
日本では明治以前にも動物愛護の考え方がありました。
天武天皇の「天武の勅令」から徳川幕府による「牛馬と殺禁止令」まで、動物を殺したり耐えたりすることを禁ずる命令や動物たちをいたわる事を命じた法律や命令がいくつもあります。
日本の近代動物愛護運動の始まりは、東京で明治に設立された「動物虐待防止会」です。
キリスト教の牧師である広井辰太郎が牛馬の窮状を訴えたのが契機とされています。
後の1915年(大正4年)に新渡戸稲造夫人とバーネット大佐夫人が中心となり「日本人道会」を設立しました。
主力メンバーの多くが在日外国人であり、西洋の動物愛護の精神を日本に広める大きな役割を果たしました。
動物観
和辻哲郎は「風土」という著作のなかで 世界の風土を、 モンーン型(アジア)、砂漠型(中東)、牧場型(ヨーロッパ)の3種類に分け、そこで暮らす人々の性格の特色を説明しています。
風土とそこに根付く宗教や神話の人間や動物に対する価値観は、人間の動物観に多大な影響を与えてきました。
アジアの動物観
ヒンズー教、仏教、ジャイナ教など古代インドに起源を持つ東洋の宗教には共通して霊魂不滅や輪廻転生の思想が見られます。
この輪廻転生という思想が仏教の「不殺生戒」に発展し、動物だけではなく生物を無闇に殺してはいけないという無意識の価値観が育まれました。
また輪廻転生では人の前世・来世が動物や虫であるという事も有り得、その為動物と人間が対等に近い動物観です。
例えば日本の昔話は人と動物が同格なのに対し、西洋の童話では人と動物は不連続です。
ですが日本では動物を可愛がり過ぎるあまり、本来動物にとってストレスになってしまうような事をしてしまう飼育者が多い事も問題としてあります。
西洋の動物観
西洋の動物観はキリスト教やイスラム教の元になった「ヘブライ思想」や、古代ギリシャの「ギリシャ思想」などが根幹となっていました。
これ等の思想は動物と人間が対等ではなく、動物は人間の資源でありました。
ですがそれ故に1800年代後半から「虐待」の定義を明確にし、動物愛護運動が発展していきました。
アジアでは動物と人間が対等である為、逆にこれ等の進歩・発展が遅れて自分では「可愛がっている」つもりでも虐待触れるような「しつけ」が問題になっています。
ヘブライ思想
旧約聖書には
「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物すべてを支配せよ」
旧約聖書創世記1章「すべての生きて動くものはあなたたちの食料とするがよい」と言われ、人間に動物を食べることを許しました。
旧約聖書創世記9章
とあり、動物は人間に支配されるもの、食料である事を神が命じたり許したりしています。
ギリシャ思想
紀元前のギリシャの哲学者アリストテレスは「動物には理性がない。利用されるために存在する」としています。
13世紀に神学者のトマス・アクィナスが『神学大全』で「不完全なものは完全なもののために存在する(動物は人間の資源である)」としました。
この考え方は20世紀までローマ・カトリックの正式見解となっていました。
近世の西洋動物論
17世紀にフランスの哲学者のデカルトは『動物機械論』で「動物は機械である」としました。
動物はゼンマイ仕掛けの時計のようなもので、言葉が通じないから理性もなく、心も意識も感覚もなく痛みも感じないという考え方が広まりました。
18世紀にはイギリスで産業革命が成され、都市化とともに動物の虐待が増えました。
ですが同時代にイギリスの哲学者であるベンサムは「功利主義哲学」で「動物が痛みを受けないようにするのは人の道徳的義務」であると説きました。
20世紀にフランスの医師・哲学者であるシュヴァイツァーは「生命への畏怖」で「生命そのものが神聖である」としました。
動物愛護運動
イギリスに始まる動物愛護運動
近世までは動物は人間の資源であり、理性も心もないというのが西洋の一般的な動物観でした。
ですが近代になってからは多くの人が動物愛護の運動を開始していくことになります。
- 1822年にはイギリスで家畜の虐待と不当取り扱い防止条例(マーチン法)が成立しました。
- 1824年にSPCA(動物虐待防止会)が設立され、後の1840年にはRSPCA(王立動物虐待防止会)となります。
- 1834年はブル・ベイティング(犬と牛が戦う見世物)が禁止されました。
アメリカへの伝播
- 1866年にアメリカ動物虐待防止協会が設立され動物虐待防止法が成立しました。ここから子どもの虐待の防止、NY児童虐待防止協会に繋がります。
日本への伝播
日本では先に触れた様に、明治以前にも動物愛護の考えや法律、命令がありました。
- 675年 天武天皇「天武の勅令」
- 江戸時代「生類遺棄禁止令」「生類憐れみの令」「牛馬屠殺禁止令」
さらにイギリスから始まった動物愛護運動は日本にも伝播します。
- 明治35年(1902年) 広井辰太郎が「動物虐待防止会」を設立。機関誌「あわれみ」を発行
- 明治41年(1908年) 「動物愛護会」設立
- 大正4年(1915年) 新渡戸万里・バーネット大佐夫人による「日本人道会」の設立
- 昭和23年(1948年) ガスコイン英国大使夫人などによる「社団法人日本動物愛護協会」の設立
現代の動物愛護運動とその思想
実験動物の基本理念 3Rの原則
動物実験ガイドラインでは動物への感謝と責任、適切な利用が定められています。
3Rまたは4Rという原則があり、
- Replacement(代替法の活用)
- Reduction(飼養動物数の削減)
- Refinement(苦痛の軽減)
があり、4つめのRとして
- Responsibility(責任)
を追加するという考えもあります。
食用動物・産業動物の福祉
1964年にルース・ハリソンが『アニマル・マシーン』で産業動物の悲惨な現状を指摘しました。
これに契機に、食用動物・産業動物に対して5つの自由を与える事が原則となっています。
- 飢え・渇きからの自由
- 不快からの自由
- 苦痛からの自由
- 恐怖・抑圧からの自由
- 自由な行動をとる自由
ウサギのドレイズ・テストやバタリー・ケージ養鶏などがこれらの「自由がない」ことで有名です。
また1980年にはヘンリー・スピラがNYの化粧品会社本社前で講義デモをし、「クルエルティー・フリー」(化粧品、薬品などが開発段階で動物実験抜き)を訴えました。
多様な動物愛護思想
- 動物の権利(アニマル・ライツ)は人による動物の利用に否定的です
- 動物の福祉(アニマル・ウェルフェア)は人による動物の利用を固定します(苦痛軽減等の福祉に配慮)
アニマル・ライツ(動物の権利)
1892年にヘンリー・ソルトが「アニマル・ライツ(動物の権利)」「制限された自由」を提唱しました。
また1964年にルース・ハリソンの「アニマル・マシーン」がイギリス政府が実態調査する契機となりました(ブランベル委員会・5つの自由)
1975年にプリンストン大学生命論理学教授のピーター・シンガーが「動物の開放」を提唱しました。
これは動物権運動のバイブルとされています。
公民権度運動→女性解放運動→動物解放運動と続いています。
また、シンガーの思想は功利主義に基づきます。
1983年にアメリカにおける現代動物権利運動の理論的指導者であるノースキャロライナ州立大学哲学科名誉教授トム・リーガンが「動物の権利の根拠」を提唱しています。
これは動物を人間が利用するために存在する資源とみなすようなシステム全体に反対したものです。
「動物は生まれながらにして固有の権利を持っているので、われわれはたとえ苦しみを与えなくても動物を殺すことはできない」と主張しています。
動物との共生
自然破壊は人類の生存にも影響します。
人間も自然や動物と共生することを主張した思想です。
ハーバード・スペンサーは「制限された自由(権利)」を主張しています。
これら同情から感情移入へ移行したことになります。
虐待とは
虐待とは
- 意図的・積極的な虐待(故意に動物に苦痛をあたえること(傷つける・閉じ込めるなど))(
- ネグレスト/飼養放棄という虐待(必要な使用管理を怠る、水や食餌を与えない、体調管理しない)
とされています。
後者の虐待が多いにも関わらず、社会的認知度は極めて低いと言えます。